ポジティブ物書きの雑記帳

物書き、弥生肇のブログ

新刊「私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて」リリースしました

私が主宰している同人(インディーズ)電子書籍レーベルHybrid Libraryより、新刊「私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて」を本日刊行しました。

私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて (Hybrid Library)

私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて (Hybrid Library)

 

 私は、作品本文の編集校正及び、イラストや写真・カバーデザインの監修をおこないました。

本作の紹介及び、編集時のエピソードやらを以下に書いてみようと思います。


●本作の著者・イラストレータ

著者は一ノ瀬芳葵(いちのせよしき)さん、イラストはじゅりさん。
お二人とも、私の数年来の創作活動(合同誌等)で仲良くさせて頂いている方々です。
お二人のサイト等は下記ご参照。

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●作品概要

少女が東日本大震災に見舞われた地を訪れて、少しだけ成長する物語。

菜津美は、反抗期まっさかりで世間に疲れている女の子。
やれ受験だ、やれ頑張れと急かしてくる世の中に疑問を抱いている。
人はいつか必ず死んでしまうのに、頑張ってなんになるのだろう、と。

そんな菜津美には、東北に住む大好きな祖母がいた。
いろんなことを教えてくれた祖母は、数年前に病気で他界した。
その祖母の夫である、気難しくて口数少なかった祖父――菜津美は苦手だった――も、2011年3月11日の東日本大震災津波で帰らぬ人となった。
祖父母を失って無常観が深まったのか、無気力に日々を生きる菜津美だったが。

ある日。
菜津美の前に、大型バイクに乗った女性、加菜が現れる。
加菜は、生前の菜津美の祖父と文通をしていていたらしい。
菜津美の祖父が津波で亡くなる数日前に、手紙で『とても大切なことを、あなたにお話しておきたい』と伝えてきたという。
だがその内容が伝えられることはなく、祖父は津波で命を落とした。
加菜はその真相を求めて、家族である菜津美たちの元を訪れたのだ。

菜津美は最初、加菜の目的=苦手だった祖父の『大切なこと』に興味を示さなかったが、
祖父の『大切なこと』が、自分の大好きだった祖母に関わることかも知れないと思い始めると、居ても立ってもいられなくなる。
奈津美は母親に嘘をついて家を飛び出し――加菜のバイクの後部座席に跨がり、東北の地へと向かう。

二人は、津波の爪痕が今も残る地で、人々と触れ合いながら真相へと近づいていく。
菜津美にとって、津波の恐ろしさを味わった人たちの想いと生き様は、はじめは理解を超えるものだった。
だが、旅の終わりに祖父の『大切なこと』を知った菜津美は、感じるのだった。
ほんのささやかながら、幸せな気分になれている自分を。

 

●編集作業の裏話

一ノ瀬さんの初稿に対して、壮絶な朱入れをしてしまいました
自分でも「ここまで言うべきなのかなあ……」と思いつつも、とにかく気になるところを指摘して、読み味を極限まで引き上げたいと考えました。
そして、二稿で再び隅々まで朱入れをしてと、手をかけていきました。

それくらいに、磨けば光ると感じる要素を初稿から感じたのです。

初稿の時点で、話の骨子はできあがっていました。
ですが、小説として見た際に魅力が引き出せてない、まだまだ上を目指せると感じた部分があったため、以下(1)(2)のようなことをやりました。また、(3)(4)のような作業も加えて、本作は今の形になっています。

(1)単純に、文章や表現の甘いところがある
私自身の実力を棚にあげて、ほんと一ノ瀬さんには申し訳なかったですが、重箱の隅をつつくようにいろいろと指摘させて頂きました。なお、指摘による修正は強制ではなく、全てSkypeで一ノ瀬さんと話して一点一点お互いの考えをすりあわせながら、どう直すのか、そのままにするのかをすりあわせながらやりました。
(※過去のはいぶらりーの作品も、基本的に同じようにして編集作業をしています)

(2)エピソードに、より説得力を持たせたかった
初稿段階から、被災した人物との会話や当時のエピソードが盛り込まれていたのですが、どこかまだ、訴えかけてくるものが足りないと感じました。ここで、読者がまさに「被災者から話を直に聞いている感覚を覚える」くらいになれば、この作品の臨場感が一気に増すと感じました。
そのため、なんとなく私がいいなあと思ってた震災に関する本(下記)を一ノ瀬さんに貸して、参考文献に足してもらいました。Twitterで知ってる人は知ってる、たらればさん(@tarareba722)が編集された本になります。

東日本大震災 警察官救援記録 あなたへ。

東日本大震災 警察官救援記録 あなたへ。

 なお、誤解なきよう書いておきますが、この本以外にも一ノ瀬さんは元々、参考文献として以下の2冊を参照されてました。私はこの2冊は知らなかったですが、どちらもとても興味深い本と感じましたので、そのうち読んでみようと思います。

巨大津波――その時ひとはどう動いたか

巨大津波――その時ひとはどう動いたか

東日本大震災 2011・3・11「あの日」のこと

東日本大震災 2011・3・11「あの日」のこと

(3)イラストレーターじゅりさんの協力
じゅりさんには、当初は表紙イラスト1枚と、挿絵1~2枚程度をお願いするつもりでした。
ですが、じゅりさんご本人からのご提案があり、一風変わった方法で挿絵を挿入する形となりました。また、それと合わせて、私が以前に被災地へ行って撮影してきた写真から、本作に使えそうなものをピックアップして、作中で使う形に加工して頂きました。
ヒントは、「写真」「ビネット」です。
米国でプロのイラストレーターとして活躍するじゅりさんのアイディアや画力をご堪能頂けると思います。

(4)表紙
デザイナーのぶやんさんには、表紙のタイトルロゴデザインで、かなり細かく注文してしまいました。ほんとすみません、ありがとうございます。
じゅりさんのラフ画を見たときから一ノ瀬さんは、「映画のポスターのような感じになるとなあ…」と言ってました。おかげさまで、長いタイトルもすっと目に入ってくるような、まさにポスターのような一枚になったと思います。
いつか、でかい紙に印刷して使う機会を持ちたいなあ。文フリかコミティアに、そのためだけに出るかなあ……。

このようにして、私以外の力を多分に借りながら本作は完成しました。


●頂いた感想など

ありがたくも、さっそく感想を頂きました。

本ブログを書かれているなつみーこさんは震災当時、茨城県に住んでいて、少なからず震災でダメージを受けた=被災者だった、とのこと。被災した立場の方にも本作で何かしら感じて頂けるところがあったようで、編集した身として、よかったなと感じました。
なつみーこさんが書かれているように、本作は震災から約四年半が過ぎた、まさに「今」を生きる少女の物語です。直接震災を知らない方も、被災された方も……「今」の気持ちで読んで頂けるのではないかと思います。

また、一ノ瀬さん本人はブログで本作を、面白くない作品だが、「面白い、面白くない」の彼岸にある何らかの読者の感情を揺すりたくて奮闘したと書いてくれています。

なお、ブログ記事の末尾を「今回のブログは発売の発表ということで、編集の弥生さんやイラストのじゅりさんとのやり取りも含め、内容面やヴィジュアル面で色々とこのブログで公開していきたいと思っております」と締められており、一ノ瀬さんのブログで今後書かれるであろうネタの一部を私が書いてしまった感が否めませんが(汗)、一ノ瀬さん視点でまた書いて頂ければ、また違ったものになると思います!(汗)


というわけで、新刊の紹介でした。
秋の夜長のおともに、本書はいかがですか?