ポジティブ物書きの雑記帳

物書き、弥生肇のブログ

地続きの未来に想いを馳せる――「最新の魔法遣いとアイを識るもの」を読んで

「未来」と聞くと、皆さんはどういった風景を思い浮かべますか?

私は1980年代前半の生まれですが、小さい頃に何度も観た、ものすごく印象に残っているCM(?)がありました。
ドラえもんかなにかのアニメの合間のCMだったと思うんですが、「21世紀~♪ そのとき地球は~」みたいな妙な抑揚の歌とともに、アニメーション動画で、いわゆるドラえもん的な未来の映像を描いていたCMです。(ネットで探したけど見つからなかった…)
車は皆、地上や上空に張り巡らされたガラスのパイプの中をすごいスピードで通っていて、人々は今にもな変な服を着て……。

私が物心ついて初めて抱いた『未来』のイメージは、このCMの映像であり、ドラえもんの中でたまに出てくる未来の描写でした。いつも、ワクワクしながら観てました。

他にも20世紀の間に、近未来を描いた作品はいっぱいありますよね。できるだけリアルにありそうな未来を描いた作品から、ぶっとんだ設定を足した作品まで。

いずれにせよ。
そういう創作物がまだたくさん溢れているくらいに、1980年代~90年代という私が物心ついて思春期を過ごした時代は、この2015年から振り返ってみれば、確かに隔たりのある世界だったなあ、と感じるのです。

それくらいに、この20~30年で技術が進歩し、世界は変わりました。
かつて描かれていた21世紀とは全然違うところもあれば、ドラえもんの道具まさにそのものが具現化してたりすることもある、面白い時代になったなと感じます。

はてさて、さらなる未来はどうなるのか。


●高度に発達した科学は魔法と区別がつかない

ようやく、今日のブログの本題に入りますが。
友人でもある作家、GODOさんの著書「最新の魔法遣いとアイを識るもの」を、大変遅ればせながら読了致しました。pixivミライショウセツ大賞の「テーマ:魔法使い」部門で受賞・刊行された作品です。

最新の魔法遣いとアイを識るもの (ファミ通文庫)

最新の魔法遣いとアイを識るもの (ファミ通文庫)

 あとがきでGODOさんが触れていますが、本作は、SF作家クラークが定義した三法則のうち、第三法則である「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という観念を根幹に、今は実用化されていない技術や概念を織り交ぜながら、二十二世紀の日本を舞台に描かれた物語です。

読んでいて感じた本作の魅力は、"未来への地続き感"です。

なるほど確かに、この本の帯で「サイエンスファンタジー」と紹介されているように、人工知能が実用技術として確立されていたり、高次元空間が絡んできたりと、2015年の今の世界からいささか遠い『未来』に感じる内容もあります。
ですが、そういった「ファンタジー」と言いたくなるような要素が、私たちが生きている現代の先にいずれ地続きで存在するかのような、不思議なリアリティがあるのです。

そのリアリティを読者に与えるものはなにか。
それは、単純なGODOさんの知識による描写だけではありません。
本作中における過去=21世紀、あるいは20世紀、それ以前の世界=私たちが実際によく知る現在の世界が、作中の至るところに地続きで丁寧に散りばめられてあるからなのです。

日本政府や世界情勢が現代ではどうなのかを踏まえて、そこからどういう変化を経て21世紀でどうなっているかが描かれていたり。
現代では誰でも知っているような映画が、古典として名前を覗かせたり。
いろいろと、「あ、知ってる知ってる!」と言いたくなる『今』が、作中のあちこちでひょっこり顔を覗かせるのです。


他の未来を扱う作品では、何百年も先の世界を面白おかしく、ぶっ飛んだ設定を敷き詰めて豪華に描いたり、近未来であろうとも、極めて非現実的な概念を交えて、刺激に富んだ内容にしたりしてますよね。そういったエンターティメントは面白いです。私もいろいろ楽しんでいます。

ですが、地続き感のある未来のお話もまたいいものだな、と。
本作で感じた次第です。

なにより、本作のタイトルにも入っていますが、人が誰かを思う気持ち、愛情とかそういった感じ方は、今も昔も未来も、きっと変わらないのです
本作の登場人物は皆、とても身近に感じられて、人間味があって、とても安心感のあるキャラクターでした。


私は大して知識も読書量もないにわかSF好きですが、冒頭で書いたように、『未来』というものにはワクワクします。
私の人生があとどれだけ残っているかわかりません。昨今は、人生がお先真っ暗でどうやって切り拓いていけばいいんだと、しばしば暗澹たる気持ちになっていたのですが、本作を読んで、少し元気になりました。
生きていくだけでもまだまだ面白いものが観られるだろうことを、思い出したから。


ところでGODOさん、またボーリングいきましょうね。笑

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